国防意識の有り様をイスラエルに学ぶべき


「やっと手に入れた国土」を守る意識
国防意識の有り様をイスラエルに学ぶべき

ヘブライ語教室主宰 児玉直純さん(四十二歳)

ユダヤ人により中東のパレスチナに建国されたイスラエル。建国に至るまでのユダヤ人の歴史、また、建国の経緯から生まれたパレスチナ問題のなかで生まれた国防意識は、日本のそれと雲泥の差があるという。イスラエルに留学し、七年間の滞在経験がある児玉さんは、「日本の無防備な体制に危機感を覚えます」と警鐘を鳴らす。

ユダヤ人が取り戻したもの

「日本とイスラエルの違いを具体的に言えば防衛意識です。日本人には当たり前ですが、日本では地下鉄、電車、デパート、役所、どこでも自由に入れます。イスラエルではいずれもテロ対策として、セキュリティチェックを受けなければなりません。物騒な話ですが、日本に帰ってきてまず思ったのが『日本はテロのやり放題だ』ということです」
そう話すのは、イスラエルのヘブライ大学に留学し、イスラエルに七年間滞在した経験を持つ児玉さん。内村鑑三がつくった無教会主義の流れを汲んだクリスチャンの家庭で育ち、ヘブライ大学では旧約聖書学と東アジア学を専攻した。現在は福岡県糟屋郡粕屋町でヘブライ語教室「マアヤン・リナー」を開業し、ヘブライ語の翻訳や通訳の仕事もしている。
イスラエルの国土は四国程で、人口は約七百八十万人の小国家だ。イスラエルの地(パレスチナ)に故郷を再建しようというシオニズム運動を経て、一九四八年にシオニストのユダヤ人により建国された。国土の六〇%は荒野でハングリー精神が旺盛な国民気質だ。児玉さんも高校生の時にグループで巡礼に行き、その「荒野魂」を感じたという。「その時は聖書を学ぶというより、建国史を学ぶというもので開拓魂を学び、イスラエルのハングリー精神に感動しました」。
ユダヤ人とは、キリスト教の元となったユダヤ教を信仰する人のことで、ユダヤ教の特徴としてあるのが、教義を頑に守る一方、ユダヤ教に入ってユダヤ人になるのは自由、出て行くのも自由、そして、自ら宣教などの伝道をしないということだ。日本人の一般的なユダヤ人のイメージとしては、「優秀な人材を数多く輩出している」というもの、また別のイメージとして、シェイクスピアの「ヴェニスの商人」に登場する金貸しシャイロックのようなイメージもあり、「金融に強い」というイメージがあるかもしれない。
「ユダヤ人は迫害され、職に就くことができずに、できることと言えば金貸しくらいでした。国土を持たず、お金しか信用できなかったということかもしれません。さらに、お金を持っていても、殺されて盗られてしまうだけという考えからか、証券というものを編み出していて、株などのシステムをつくり出しています」。つまり、現在の金融システムのルーツをつくったのはユダヤ人で、アメリカの金融はユダヤが牛耳っていると言われるのには、こういった背景がある。
「ユダヤ人が世界中において迫害された理由のひとつは、自分たちの文化・宗教を守って、周りのことは受け入れないという保守性の強さだと思います。しかし、だからこそ二千年間もの間、国がなく世界を流浪しながらも、生き延びることができたのだと思います。また、保守性が強いという話と矛盾するかもしれませんが、ユダヤ教は世界を流浪していることから、様々な文化から影響を受けていて、ある意味では幅広い度量があります。教義に対しては頑固ですが、しなやかさを持っていて、他宗教を否定するような排他的なところはありません。『来るものは拒まず、去る者は追わず』なのです」
ユダヤ人が国土を失い、二千年もの間、流浪しているうちに失いかけたものがある。いわゆる古典ヘブライ語と言われる旧約聖書の言葉だ。ユダヤ人が世界離散する以前から次第に話されなくなり、聖書などの研究・儀式・祈りや別々の言語を話す遠隔のユダヤ人共同体同士がコミュニケーションを取る場合などに使われるのみになっていた。ヘブライ語による著述活動は途切れることなく続いていたことから全くの死語となっていたわけではないが、日常語としては用いられなくなっていた。
ユダヤ人の努力によって現代ヘブライ語が話し言葉として再生されたのは二十世紀になってのことで、後にイスラエルの公用語のひとつとなっている。一度日常語として使われなくなった古代語が再び復活して実際に話されるようになったのは、歴史上ヘブライ語だけだ。こういった理由もあり、イスラエルには世界中に離散したユダヤ人がイスラエルに帰還した時に、ヘブライ語を学び社会に馴染むための役割を担っているキブツと言われる集産主義的共同体がある。
「イスラエルに渡り、ヘブライ語を学ぶために、まずキブツで一年間の集団生活をしました。半日は語学勉強の教室を提供してもらい、もう半日は労働力を提供するというもので、ひとつの村になっています。資産は全て共有で支配者がおらず、世界で唯一、共産主義が成功した例とも言われています。全員が同じ志を持っているからできることです。キブツの教育システムは素晴らしく、皆が三ヶ月程で日常会話ができるようになります。この言語教育システムも世界から注目されています」

本当の防衛とは

イスラエルの政治形態は議会制民主主義で、象徴的な存在の大統領がいて、政治は首相が行っている。大統領は国家元首であり、基本的に政治にはタッチせず、国事行為を行い、閣僚の任命などをする。国に対する貢献度、人格が焦点とされて、選挙で議員が選ぶのだが、議員からとは限らず、学者などからも選ばれる。「現在のシモン・ペレス大統領は政治家出身ですが、大統領になった時点で政治の世界からは引退し、政治を突き抜けた存在になっています」。
イスラエルには十八才から男性は三年間、女性は二十一ヶ月間の兵役義務があることからも、国民にはテロ対策のためのコンセンサスがある。セキュリティチェックは当たり前で、国民からの文句は出ない。イスラエルはユダヤ人が二千年の流浪の末にやっと手に入れた国土であるという喜びと覚悟が強く、それだけにテロに対する意識を含め防衛意識、国に対する意識は日本と全く違う。
アラブ人のテロリストは「ユダヤ人を抹殺せよ」と言って憚らない。イスラエルの「戦争で一度でも負ければ、民族が滅ぼされる」という思いは非常に現実的な危機感だ。反対に、これまでアラブはイスラエルに戦争で何度も負けている。しかし、イスラエルがアラブを蹂躙するようなことはなかった。戦争と戦術・戦略を混同している日本とは違い、イスラエルは「戦争を仕掛けられた時に先制攻撃をすることがあっても、深追いはしない。相手の領土を侵さない」ということを徹底した防衛の姿勢を貫いている。
「日本人は戦争で負けてから、『日本人が悪かった』と思ってしまいました。ユダヤ人はナチスの被害者になって、『もう二度と被害者にはならない。自分の身は自分で守らなければならない』と考えました。日本人は自分たちが悪かったと思えば、戦争が起こらないと思っていて、戦争を台風か何かの天災のように話します。しかし、戦争は人災であり、テロが起こるのと同じです。イスラエルが国を守る姿と日本の国を守る姿には相当なギャップがあると思います」
イスラエルはユダヤ人が二千年の流浪の末、やっと手に入れた国だ。そしてその結果、パレスチナ問題という大きな問題をも抱えている。日本とは全く違った防衛意識があるのは当然だが、国防を考え直す時期に来ている日本にとって、その「国を守る」という国民全体の意識の有り様はイスラエルに学ぶべき所が多々あるのだ。

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この記事へのコメント

  1. 守山善継 より:

    児玉さんの寄稿で、イスラエルの政治体制について初めて知りました。またイスラエルが予防戦争を躊躇しないこと、それに指摘されてみると、勝利の後でも露骨な領土拡大の要求をしないことも改めて認識させられます。軍事的には防御攻勢、というのか攻勢防御というのかは、郷友連盟の専門の方々に聞いてみなくてはいけませんが。
     また、イスラエルでは先人の歴史を、感じさせるためにマサダの要塞で徴兵の際、宣誓をさせると聞いたことがあります。いずれにせよもっと知ってみたいと思います。次回「イスラエル国民の国家意識と国防政策」をテーマに投稿して頂きたいと思います。また、文献でイスラエルの安全保障や軍事についてもべられている物があれば、ご紹介ください。英文の物でも結構です。

  2. 管理人 より:

    守山さん、コメントありがとうございます。
    日本では専守防衛の方針で、決して先制攻撃はしないとされていますが、防衛族OBとしては国の安全保障を考える上で、それは不可能と考えております。つまり「攻撃は最大の防御」です。
    その観点ではイスラエルの国防政策に学ぶべきところが多々あるように思います。

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