吉田海将の講演参加所感(守山善継氏)


去る4月21日福岡県郷友連盟の総会に参加し、佐世保地方総監の吉田海将の講演を拝聴する機会に恵まれました。私に速記術の技能が有れば書き留めておきたい内容でした。小郡市で聞いた志方元陸将の講演の際に抱いた印象と同じように一般人と吉田海将の「目」、識見の深さ、そのあまりの隔たりには驚かされました。海将の一言一句に教えられ、蒙を啓かれる事ばかりと表現しても過言ではなかったでしょう。
吉田海将のお話から、自衛隊の任務や機能が如何に政治と密接な関係を持ち不可分であるかを、より一段と理解致しました。しかし、失礼ながら日本の政治家の方々は吉田海将と対等に渡り合えるような、政治と軍事の関係がお分かりになっているのでしょうか。そうである事を信じたいものですが、もしそうでなければ「先生」という敬称が空虚に響きます。
吉田海将の話を聞きながら、私は元アメリカ国防次官補のアーミテージさんが「日米同盟ほど重要な同盟はない。我々はその関係を確固たるものにすべく努力してきた。」といい、「キャンベルは別だが、オバマ大統領、キッシンジャーがどれくらい日本のことを知っているというのか。」ともいい、ジョセフ・ナイさんと共著での報告書では「アメリカの国益にかなうのは強い日本だ」と明言しているのは、この自衛隊を見ているのだろうと感じました。アーミテージさんと同じ考えがある限り、まず、間違いなくアメリカは日本を手放さないことでしょう。
私も巷でよく言われる、「日米同盟の片務性」にすっかり洗脳されていたのですが、吉田海将は「領域防衛を自衛隊が、戦力投影を米軍がといった軍事機能的な分担から見ると双務性が成り立っているという解釈を示され、その同盟という関係を維持するには、海上自衛隊の能力、術力が米海軍と同等かそれ以上というのが条件になるということで自衛隊は訓練をしてきた。」と話されました。
そのような状況判断と、我が任務、求められる条件などを体系化されている現実を教えられ、「凄いものだ」の一言でした。在日アメリカ海軍の司令官がインタビュー時に「カイジョウジエイタイ」と日本語で言うのを耳にする事が有りますが、パートナーとしての信頼なのでしょう。このような自衛隊の現実に比べると「できないとは言わない事。私は出来る、きっとできる、と暗示をかけましょう。」などとマイナス思考からプラス思考の重要さを研修でやる民間企業やスポーツ合宿などのレベルは児戯のようなものかもしれません。
また海将は「我々の先輩が何を考えたか」という言葉を頻繁に使われ、現在の姿を説明されました。それは敗戦によっても途切れなかった海軍の伝統が息づいていることは誇りとするところですが、先輩から伝えられること、つまり「教育」に反応する能力を抜群に持つということではないだろうかという思いで聞いていました。それは、他民族に比べ日本人の持つ最大の優秀性と言えるのではないでしょうか。
自衛隊高官はなかなか政治的な発言はされないのでしょうが、21世紀に入り、日本を取り巻く情勢が緊張を高める中、三戦戦略で覇権を目指す中国や、近年になって息を吹き返す兆氏が強いロシアなど極東の情勢や、世界情勢について海上自衛隊はどう考えるのか是非、聞いてみたいものです。
故司馬遼太郎は「坂の上の雲」を上梓するにあたって、「海軍はそれ自体が文化であった。」と述べ、故江藤淳は日本海軍の近代化の礎を築いた山本権兵衛を描いた名著「海は甦る」で明治海軍の姿を描き、故中村悌二海将は「生涯海軍士官」に故山中勝之進大将が「君たちは隆々たる昭和海軍しか知らんだろうが、先輩たちはみんな苦労したのだ。君たちも負けずにいいものを作れ。頼りとするものは人だけなのだ。君たちだけなのだ。」と言われたと回想されています。
吉田海将の講演を聞き、大いに崩れたところもある日本の中で、連綿と続く海軍の伝統を感じさせられたひと時でした。

平成25年4月23日
守山善継
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